代替医療妄信にひそむ危険 症状改善は正しい診断から

痛みの再発を防ぐ治療とは?

 一番大事なことは、体のどこが、どのように壊れているのか、痛みの原因を正しく診断し、それを取り除くことです。

 筋肉や関節の損傷が原因だった場合、日常生活で「組織が壊れるメカニズム(組織のけがにつながる動作など)」を避け、「体の正しい使い方」を覚えることから治療は始まります。具体的には、座り方、立ち方、床から物を持ち上げるときなどの体の動きを診察時に確認し、「体の間違った使い方」を一つずつ治していきます。

 例えば、椎間板の損傷が原因の腰痛持ちの人は、腰を曲げてねじる・圧迫するといった、椎間板に負担をかける動作をできるだけ避ける必要があります。体の間違った使い方、つまりけがの原因を解消しなければ、腰痛は何度でも再発します。

 栄養バランスの取れた食事、適度な運動、1日最低6時間の睡眠など、生活習慣の改善も痛みの治療には欠かせません。体力作りのために良かれとやる運動も、食事で栄養を十分に取らず、睡眠不足で疲労がたまったまま無茶をすると、けがや不調の原因になります。実際、痛みを訴える患者さんのほとんどに、間違った体の使い方や生活習慣が見られます。また、はっきりとした理由は解明されていませんが、喫煙者に慢性腰痛が多いことも分かっています。

 カイロプラクティックやその他の手技による関節や筋肉の損傷、癒着の治療も並行して行います。このように、さまざまな角度から原因を取り除くことで、痛みの再発を防ぎます。

機能性トレーニングとは?

 普通は、数回の治療で痛みがかなりラクになります。痛みが軽減したら、次に体の機能性を高めるトレーニングに取り組みます。関節や筋肉の働きを改善し、壊れにくい強い体を作ります。

 最初は簡単な運動から始め、体の状態や筋力の回復に応じてレベルを徐々に上げていきます。最初から難しい運動をしても続かないし、何よりけがの原因になるからです。

 例えば首の痛みの場合、横隔膜の使い方と非常に関係が深いので、呼吸法から指導します。体幹を鍛えたいときは、寝た状態で体幹を意識することから始め、正しい姿勢で立つ・椅子から立ち上がるトレーニング、スクワットなどに移行します。

 産後の腰痛や尿漏れも、「骨盤の歪(ゆが)みやズレ」といった難しい話をする以前に、体力の低下が原因です。妊娠中の運動不足から筋肉が衰退し、体力が落ちたところに育児の無理が重なり、関節や筋肉が損傷したケースがほとんどです。赤ちゃんの抱き方など、体の正しい使い方を覚えてもらった上で、食事でしっかり栄養を取りながら、治療と並行して無理のないペースでトレーニングを行います。

痛み止めの薬や注射を使うこともありますか?

 あります。手技、注射、手術などの治療法にはそれぞれに得意・不得意があるので、症状によってはそれらを組み合わせることで最善の治療法が完成します。

 痛みが強いと、心身がつらいだけでなく、体力がさらに低下してしまいます。そのため、手技による治療だけで痛みを断ち切れない場合は、痛みを緩和する薬や注射を併用することがあります。それによって、例えば十分な睡眠が取れるようになれば、体力が回復し、機能性トレーニングを早く開始できるかもしれません。

 症状によっては、手術でしか治療できない、あるいは手術が最善の治療法の場合もあります。

健康維持のために、日ごろからできることは?

 たくさんありますが、まずは栄養バランスの取れた食事、適度な運動、1日6時間以上の睡眠など、できることから取り組みましょう。

 痛みが出たら、早めに診断を受けることも大事です。例えば、四十肩・五十肩という名前で知られる肩の不具合も、筋肉の損傷、関節の炎症など原因はさまざまで、原因によって治療法は異なります。

 自分の健康は、自分で守るのが基本です。私の役割は、そのための「突破口」を広げる治療を提供することだと考えています。

間違った体の使い方が痛みの原因になることも。椅子に座った姿勢から、立ち上がる時の体の動かし方まで、診察時に細かく指導する(写真は弊紙モデル)